2002年のWSSD(ヨハネスブルグサミット)で決められた化学物質に対する2020年目標は、国際化学物質管理会議(International Conference on Chemicals Management:ICCM)やそこで決められた国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(Strategic Approach to International Chemicals Management:SAICM)により、実行が進められてきました。
しかし、2020年目標の結果を審議し次の枠組みを決めるはずであった会議は、パンデミックにより延期せざるを得ない状態になりました。
実際のところ2020年目標は達成されていないというのが一般的な認識だと思いますし、SAICM事務局の報告でもそうなっているようです。
2023年9月にドイツのボンで行われた第5回国際化学物質管理会議(ICCM5)においてようやく次の枠組みであるGlobal Framework on Chemicals –For a Planet Free of Harm from Chemicals and Waste (化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)―化学物質や廃棄物の有害な影響から解放された世界へ)が採択されました。
今回はこのGFCについて概観していきましょう。
化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)に法的拘束力はない!
まず新たな枠組みのGFCには、法的な拘束力がありません。つまりPOPsに対するストックフォルム条約のように、締結国においては基本決定事項を国内法に反映するというようなことをする必要はないことになります。
ただし、国際的な会議や必要に応じた進捗確認のやり方は絶対に必要になると思われます。
環境省のHPにはこの化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)に関するページがあります。
ここには、化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)の全文や和訳、さらにはハイレベル宣言であるボン宣言も掲載されています。
また、国内においての取り組みについても書かれており、今後この情報は増えていくでしょう。
化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)の大枠
では、化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)には何が書かれているのでしょうか?
I. 序文
まず、序文があるのですが、ここにWSSDの2020年目標は達成されなかったといきなり書かれています。
だから、より野心的で緊急な行動が必要だということで、延々と序文にやるべき大枠が書かれています。
II. ビジョン
我々のビジョンは、安全で健康的かつ持続可能な未来のために、化学物質や廃棄物の
有害な影響から解放された世界である。
となっています。それはいいけど、それ化学物質からだけの施策で解決できるとは思えないよね。
III. 対象範囲
枠組みの対象範囲は、製品や廃棄物を含む化学物質のライフサイクルである。
となっており、いわゆるゆりかごから墓場までのすべてのステージが対象になっています。
IV. 原則とアプローチ
このブロックは、様々な項目に言及されています。項目だけ挙げると
A. 知識と情報
B. 透明性
C. 人権
D. 脆弱な状況にある集団
E. ジェンダー平等
F. 未然防止アプローチ
G. 公正な移行
H. 連携と参加
となっているのですが、ビジョンを達成するのに全部必要なのか?とか足りないものもあるんじゃない?とか思ってしまいます。
V. 戦略目的とターゲット
ここには、主体が化学物質と廃棄物の適正管理に取り組むための全てのレベルでの努力の指針とされています。
ここには、5つの戦略目的とそれに紐づく28の個別ターゲットが設定されています。戦略目的だけ書くと以下のようです。
A. ライフサイクルを通じて、化学物質の安全で持続可能な管理を支援し、達成するための
環境省HP GFCの仮訳より引用
法的枠組み、組織的メカニズム び能力が整備されている。
B. 情報に基づいた意思決定と行動を可能にするために、包括的で十分な知識、データ及び情報が生成され、利用可能で、全ての人に入手可能である。
C. 懸念される課題が特定され、優先順位が付けられ、対処される。
D. 人の健康と環境へのベネフィットが最大化され、リスクが防止され、防止が実行不可能な場合は最小化されるように、製品のバリューチェーンにおいて、より安全な代替品と革新的で持続可能な解決策が存在する。
E. 増大した効果的なリソース動員、パートナーシップ、協力、能力形成 び全ての関連する意思決定プロセスへの統合を通じて、実施が強化される。
これらのA-Eの目標に対して、更にそれぞれ個別のターゲットが設定されています。Aは7個、B 7個、C 1個、D 7個、E 6個です。
ターゲットは、SDGsに合わせて2030年になっているようですが、ダメなものは2035年になっています。
これらは、可能な限り個別具体的に主体者や目標が書かれているそうなのですが、例えばAの戦略目的の個別ターゲットに
ターゲット A1 – 2030 年までに、各国政府は、その国の状況に適した形で、化学物質と廃棄物
による有害な影響を防止し、防止が実行不可能な場合は、最小化するための法的枠組みを採
択し、実施し、執行しており、適切な組織的能力を確立している。
ターゲット A3 – 2030 年までに、企業は、ライフサイクル全体を通じて化学物質による有害な
影響を防止し、防止が不可能な場合は最小化するための措置を実施する。
とかいうのがあるのですが、これ日本なんかA1はもうできてると主張しても問題ない気もします。A3も現時点でできてると主張する企業があってもおかしくありません。
かと思えば、
ターゲット B3 – 2035 年までに、主体は、化学物質と廃棄物の環境への排出と放出に関するデ
ータに加えて、材料と製品への化学物質の使用を含む化学物質の生産に関するデータを生成
し、これらのデータを利用可能にし、一般にアクセス可能にする。
などという、今後10年かかってもとてもできそうにもないターゲットも存在します。
とは言え、書かれているターゲットの詳細がわからないことには、できているのかいないのかの判断は困難です。
VI. 実施支援メカニズム
ここには、当然実施支援メカニズムが書かれているわけですが、その中身は多種多様です。詳細は、実際の文を読んでください。
A. 実施プログラム:主に国際会議と国際間プログラムのような大きな枠組みに関して記載されています。
B. 国内実施:主に各国の政府が主体となってやるべきことが書かれています。
C. 地域協力と協調:経済力やその他の状況で地域によって実施優先度が異なるのでそれに対応した施策について書かれています。
D. 部門及び主体の関与強化:産業界や民間部門の実施項目、保健などを含む公共部門の役割、労働者への安全の配慮など、多少具体的な項目に言及されています。
VII. 懸念事項
懸念事項は、
A. 定義
B. 懸念事項の推薦、選定、採択
C. 実施メカニズム
となっていて、懸念事項自体に定義があります。それに当てはまる場合は、付属書にある書式を使って推薦して事務局に提出し、国際会議で検討という手続きが取られます。
これは、懸念事項だけなら山ほどあるでしょうから、どういったものが出てくるのか、それとも出てこないのか見てみたい気もします。
VIII. 能力形成
この部分は、枠組みを実施するためには、必要な技能、知識び資源を蓄える必要がある。
技術移転の支援などにも技能、知識び資源の動員が必要でそれに可能な限り協力するというようなことが書かれています。
IX. 財政に関する考慮
ここには、金をどっから持ってくるんだという話が書かれています。
A. 資金調達に関する統合的アプローチ
1. 主流化
2. 民間部門の関与
3. 専用外部資金
B. 多部門パートナーシップの設立と関与
となっていますが、主なものはA.です。
1. 主流化は、いわゆる予算に、化学物質と廃棄物の適正管理を明確に組み込むことを指すのですが、国としてはありでも民間部門や投資家が今そう考えるかはかなり?です。
2. 民間部門の関与は、化学物質と廃棄物の適正管理を実施する際の費用の内部化や非財政的な貢献すもべきとしています。更には、データ生成、共有、能力形成への支援や規制遵守、労働環境などへの言及もあります。
3. 専用外部資金は、要は国連環境計画によって管理する基金を創設するということで、国や民間に金出せということです。
X. 組織的アレンジメント
ここには、この国際プログラムをどうやって進めていくか、つまり国際会議や事務局についてどうしていくかが書かれています。
XI. 進捗状況の把握
ここには、進捗状況の報告とそれによる進捗把握のやり方が書かれています。
XII. 枠組みの改訂と更新
ここには、この枠組みの改訂と更新についての手続きが書かれています。
国内での動き
この化学物質に関するグローバルな枠組み(GFC)が採択されたことから、国内でも活動が始まっています。
化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)に関するページにあるように、2024年2月には第19回政策対話で、化学物質と環境に関する政策対話が行われました。
また4月には化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)関連省庁連絡会議として、1回会合が行われています。
と言うことで、これから活動が始まると言ってよいでしょう。
結局何するの?
この化学物質に関するグローバルな枠組み(GFC)において、日本が何するかはこれから決まることになります。
範囲がばかみたいに広いので何をすることになるのか管理人は見当もつきません。今後を見守りたいと思います。
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