循環経済(circular economy)と製品化学物質管理の2回目です。
循環経済(circular economy)を考えるとき、その中に含まれている化学物質(ここでは、材料などの製品構成しているすべては化学物質という考え方をしています)は、切手も切り離せない関係になっています。
今回は、2024年6月に行われた、第9回産業構造審議会 産業技術環境分科会 資源循環経済小委員会に資料として提出された、「成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)」を見ていきたいと思います。
本当は、ISO規格の方を先にと思ったのですが、まだ全然読めていない(^^;。
成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)には何が書いてあるのか?
「成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)」には何が書かれているのでしょうか?(相変わらずお役所の書く文書の題名は長すぎて困ります)
この文章は大きく以下の4章に分かれています。
- 我が国の循環経済を巡る動向
- 諸外国の循環経済を巡る動向
- 資源循環経済小委員会での制度見直しにあたっての視点・考え方
- 「資源生産性」の最大化に向けた施策
この中で、重要なのは3.および4.でしょう。1.は国内の状況と問題点の提起、2.は海外の循環経済の動向です。1と2については、今回省略します。
資源循環経済小委員会での制度見直しにあたっての視点・考え方には何が書かれているか?
この項目の内容は、
- 線形経済の問題点
- 資源生産性の最大化
- 自律的な循環経済の促進に向けた環境整備
- 製品の効率的利用・CE コマース促進
- 製品設計の高度化
(1)エコデザイン(循環配慮設計)の推進
(2)「循環資源」の流通促進
となっているのですが、現時点での循環経済の一番の問題点は、1.線形経済の問題点にある、
素材においてはクリーンで資源リスクが低い素材に適切な評価がなく価格が高い、製品においても、追加的コストを支払ってグリーンな素材を調達して製造しても消費者に購入してもらえない、消費者も未だに新品・所有へのこだわりが強く消費行動が変わっていない。
と言うことだと思います。消費者は、同一性能なら安いほうを買うのは当然であり、その際に環境価値や化学物質のことを気にする人はほとんどいません。
しかも、発展途上国において、安価なバージン材の製品を製造して輸入販売された場合は、日用品などは対抗できないでしょう。
2.の資源生産性の最大化は、製品の付加価値の最大化と持続可能性が担保されない天然資源消費量の最小化とさらっと書いてあるのですが、製品の付加価値って受取側が何を付加価値と思うかで決まるので、とても難しい問題だと思います。
また、資源の有効な利用の促進に関する法律(以下、資源法)についても現行では不十分と書かれています。
3.の自律的な循環経済の促進に向けた環境整備や4.製品の効率的利用・CE コマース促進の項目は、総論的で具体的なものが書かれていません。
5.の製品設計の高度化は、多少具体的な事柄が書いてあります。
最初に(1)エコデザイン(循環配慮設計)の推進が書かれていますが、ここには具体的なものはありません。高度な環境設計に対するインセンティブがないので制度設計が必要みたいな話です。
(2)「循環資源」の流通促進については以下の項目が書かれています。
A) 需要と供給との平仄のとれた取組の必要性
いや平仄(ひょうそく)って言われても、もう今の人たち判らないよ。つじつまでも変だしバランスって書けばいいじゃん。
と言うことで、ここには循環資源を使う理由が希薄なことと、中間処理やリサイクル業者が量や品質の確保に投資していないことが書かれています。
その上でB) 量の確保、C) 質の確保に対して施策を行わねばならないことが書かれています。
「資源生産性」の最大化に向けた施策には何が書いてあるのか?
ここには、この中間とりまとめが提案し導入したいと思っている制度が書かれており、一番の肝と言えるでしょう。大まかな内容だけ書いておくと以下のようです。青字は、実際の施策になります。
1. 自律的な循環経済の促進に向けた環境整備
(1) 循環指標ガイドラインの策定
これは、循環経済を考えるときに重要な指標を整理して、企業における循環実態の可視化・モニタリ
ングや自主的なディスクローズを推進するために設けられます。
2.ビジネスモデルの革新(「製品」の効率的利用・CE コマース促進)
(1) サービス・エコデザイン
サービス・エコデザイン制度を検討(業種指定と判断基準の設定)と高いレベルのCE コマースの差別化(ラベリング制度等)
(2) トレーサビリティ促進のための表示制度の導入
特定の耐久財に対して、表示の標準にトレーサビリティのための個別識別子の表示を追加する検討。
(3) 情報連携PFの構築
「CE 情報流通プラットフォーム」の構築を検討。
(4) 部品レベルの循環促進
部品リユースの促進検討を行う。家電リサイクル法が例として挙げられている。
3.製品設計の高度化(資源消費量の抑制)
(1) エコデザイン(循環配慮設計)の促進
A) 循環配慮設計のトップランナー認定制度&ラベリング制度の導入
これは、表題そのまんまですね。
(2)「循環資源」の需要創出
A) 再生材の利用に関する義務の拡充(判断基準策定・計画策定・実施状況の定期報告)
再生材の利用等に関して取り組むべき事項の明確化、それに関する計画の策定、実績の定期報告を追加する(PDCA サイクルの構築)。
B) 有用な資源を含む副産物の利用に係る義務の導入
有用物を多量に含むが国内循環ができていない工程端材を再生利用する義務を措置する。
C) 再生材利用に関するインセンティブ付与
国等の公的機関によるグリーン調達や、グローバルな競争力を踏まえた各種補助制
度等。
(3)「循環資源」の供給強化
(3-1) 循環資源の量を確保するために必要な制度的措置
A) 既存インフラの最大限の活用
まあ、これはそのまんまですね。
B) 再生資源供給産業の育成
リサイクル事業者を「再生資源供給産業」として成長産業とすることを目指す。現行の各種リサイクル法に対して規制や促進策を検討。
(3-2) 循環資源の質を確保するために必要な制度的措置
A) 再生材の品質可視化による循環市場の活性化
B) 再生材に関する認証制度の導入
再生材を供給する事業者を認証するプロセス認証制度や、再生材であることの確からしさを担保する認証制度を導入することを検討(認証機関を指定する等)。
残念ながら化学物質管理という側面での記述はない
以上見てみると、いかに今まで廃棄物となっていたものや各種リサイクル法で利用してきたものを高度化して投入側に持っていくかという点にのみ、焦点が当てられており、化学物質管理の側面からの記述はありません。
管理人としては、これは非常に残念でなりません。
どうしてもそうなってしまうのは判るのですが、プラスチック材料などを再資源化しようとすると日用品などは海外から入ってくるものも多い、耐久消費財では発売からの年数がたってからのリサイクルになるなどのことが起こります。
従って、含まれている化学物質によっては現時点ではSDSに情報を書かなければならなくなる、海外では禁止になっている場合もあるなど様々な問題点が浮かんでくるのは確実です。
次回も、今回の続き
循環経済と化学物質管理に関するお話は、文書を見たり考えたりするとなかなか難しい問題だと思っています。
管理人は、ひどいことを言ってしまうと循環経済への移行は、この中間とりまとめに書かれていることが本質だとはあまり思っていません。
ならなんなんだよ!と言うツッコミが入りそうですが、十分に考えがまとまっているわけではありません。それほど複雑だと思っているということです。
それと私がお世話になっている、JEMAIで「循環経済(サーキュラーエコノミー)基礎セミナー」と言うのをライブ配信で行うようですので、興味のある方は申込んでみてください。
2024年10月10日(木)13:30(開講)~16:40(終了)です。
お値段はかかりますが、有名な先生が、私の内容なんかよりよっぽど詳しく本質から説明してくれるはずです。
次回は、ISO-59000シリーズを読み解いていきたいのですが、いつのことになるやら。
それと使いやすくするための内部リンクが一向に進んでいません(不得意なだけ)。
ですので、chemSHERPA V2R1がリリースされるまでは、記事作成より、ブログの使いやすさの変更に時間をかけるつもりですのでよろしくお願いします。
コメント