2024年度になって、循環経済(circular economy)についての議論が活発になっているようです。ISO-59000シリーズ(Circular economy)の一部は発行されましたし、第五次循環型社会形成推進基本計画として、循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~も国会に報告されました。
製品化学物質管理にも無縁とは言えないこの循環経済(circular economy)について数回見ていきたいと思います。
そもそも循環経済(circular economy)って何なのか?
循環経済(circular economy)は、それ以前から考え方はあったのでしょうが、2015年12月に欧州委員会からの通達として、
Closing the loop – An EU action plan for the Circular Economy
という欧州の行動計画が発表されたことが大きな契機になっています。
この中の序章の最初の方に以下のようなことが書かれています。
サーキュラー・エコノミーは、資源不足や価格変動から企業を守り、新たなビジネスチャンスと革新的でより効率的な生産・消費方法の創出を支援することで、EUの競争力を高める。また、あらゆる技能レベルの地域雇用を創出し、社会的統合と結束の機会を創出する。同時に、エネルギーを節約し、気候や生物多様性、大気、土壌、水質汚染など、地球の再生能力を超える速度で資源を使い切ることによって引き起こされる不可逆的な損害を回避することにもつながる。
もちろん、環境問題への解決や持続可能性やSDGsのことも書かれてはいるのですが、新たなビジネスチャンスや、雇用の創出、そして何よりEUの競争力を高めるということが書かれています。
つまり、今後の世界でEUが優位に立とうとする戦略の一環なわけです。
Closing the loop – An EU action plan for the Circular Economyには何が書かれているのか?
では、このClosing the loopには何が書かれているのでしょうか?pdf上で実質20ページある文書です。
序論以下、以下のような項目建てになっています。
- 生産
1.1 製品設計
1.2 生産プロセス - 消費
- 廃棄物管理
- 廃棄物から資源へ:二次原材料市場の促進と水の再利用
- 優先分野
5.1 プラスチック
5.2 食品廃棄物
5.3 重要な原材料
5.4 建設と解体
5.5 バイオマスとバイオベース製品 - 革新、投資とその他の横断的な対策
- 循環型経済に向けた進捗状況の監視
- 結論
個々の項目に何が書いてあるかは、実際の文書を読むべきですが、4. 廃棄物から資源へと5. 優先分野に大きな特徴がみられます。
第五次循環型社会形成推進基本計画には何が書かれているか?
では、日本の今年策定された第五次循環型社会形成推進基本計画には何が書かれているのでしょうか?
そこには、循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~令和6年8月という表題が書かれています。この計画は、今年5月に策定された第六次環境基本計画に整合性があるように作られています。
この第六次環境基本計画には、目的が「環境保全と、それを通じた現在及び将来の国民一人一人の『ウェルビーイング/高い生活の質』」と明記され、今までと大きく変化しています。
つまり、従来の規格大量生産型の工業社会が、人類文明の流れに沿わなくなったとしているのです。
管理人的には、この目的自体は間違っていないのではないかと思っています。
第五次循環型社会形成推進基本計画に戻りましょう。この文書pdfで146ページもあります。
そして計画の目次は以下のようになっています。文書の最初にはじめにという序章があります。
- 我が国の現状・課題と、解決に向けた道筋(循環経済先進国としての国家戦略)
1.1.循環型社会の形成の鍵となる循環経済への移行
1.2.地方創生と地域の社会課題の解決
1.3.資源確保による我が国の産業基盤の強化
1.4.循環経済への移行による地球規模の環境負荷低減への貢献
1.5.循環型社会を取り巻く現状
1.6.循環経済先進国としての国家戦略 - 循環型社会形成に向けた取組の中長期的な方向性
2.1.循環型社会形成に向けた循環経済への移行による持続可能な地域と社会づくり
2.2.資源循環のための事業者間連携によるライフサイクル全体での徹底的な資源循環
2.3.多種多様な地域の循環システムの構築と地方創生の実現
2.4.資源循環・廃棄物管理基盤の強靱化と着実な適正処理・環境再生の実行
2.5.適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進 - 目指すべき循環型社会の将来像
3.1.資源循環のための事業者間連携によるライフサイクル全体での徹底的な資源循環が達成された姿
3.2.多種多様な地域の循環システムの構築と地方創生の実現が達成された姿
3.3.資源循環・廃棄物管理基盤の強靱化と着実な適正処理・環境再生の実行が達成された姿
3.4.適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進が達成された姿 - 各主体の連携と役割
4.1.各主体の連携
4.2.各主体の役割 - 国の取組
5.1.循環経済への移行による持続可能な地域と社会づくり
5.2.資源循環のための事業者間連携によるライフサイクル全体での徹底的な資源循環
5.3.多種多様な地域の循環システムの構築と地方創生の実現
5.4.資源循環・廃棄物管理基盤の強靱化と着実な適正処理・環境再生の実行
5.5.適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進 - 循環型社会形成のための指標及び数値目標
6.1.循環型社会の全体像に関する指標
6.2.循環型社会形成に向けた取組の進展に関する指標
6.3.今後の検討課題 - 計画の効果的実施
7.1.関係府省庁間の連携
7.2.中央環境審議会での進捗状況の評価・点検
7.3.個別法・個別施策の実行に向けたスケジュール(工程表)
第五次循環型社会形成推進基本計画は、計画であって戦略ではないのである程度細かく書かれているのは仕方がないと思います。
戦略という意味では経済産業省が出した循環経済ビジョン2020のほうが近いかもしれません。
ただ、第五次循環型社会形成推進基本計画に書かれている循環経済の内容には、管理人的には違和感ありまくりの項目も存在します。
- 東日本大震災で生じた放射性廃棄物の処分
- 地方創生と地域の社会課題の解決
特に地方創生と地域の社会課題については、これでもかと目次でも中身でも言及されています。
しかし、結果としてそうなるなら良いことですが、それが先じゃないでしょうと思いますし、環境省が関われる内容として書かれているとしか思えません。
化学物質管理に関する項目は、ほぼ皆無
循環経済に関する欧州と日本の戦略や計画を見てきましたが、これらの中に化学物質管理に関する項目は、ほぼ皆無と言っても過言ではありません。
ですが、化学物質に関する規制は世界中で多くあり、欧州や日本も例外ではありません。第五次循環型社会形成推進基本計画では、東日本大震災で生じた放射性廃棄物の処分については記載されているのに、化学物質については言及はありません。
放射性廃棄物の処分が重要な問題なのは理解するのですが、循環経済の基本計画に書く項目なのか個人的には疑問です。
問題は、化学物質に関する処理や規制が、循環経済の推進と矛盾を起こす可能性があるということです。
この点について、「第五次循環型社会形成推進基本計画(案)」に対する意見募集においては結構指摘されていたようですが、現実的な回答は無かったと認識しています。欧州においても同様でしょう。
次回は、今回の続き
循環経済と化学物質管理に関するお話は、文書を見たり考えたりするとなかなか難しい問題だと思っています。
次回も文書を読み解いていきたいと思います。いずれ必ず見ようと思っているのは、
ISO-59000シリーズ
更には、産業構造審議会 資源循環経済小委員会から発表された以下の文書です。
成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)
そして、
chemSHERPA HPにある循環経済対応の製品含有化学物質管理 ディスカッションペーパー(Ed.3)
を見て、循環経済と化学物質管理について考えたいと思います。
この問題は、何回かに分けて見ていくつもりです。
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