REACH 制限物質(その4)は、Entry67のBis(pentabromophenyl) etherです。でも、Decabromodiphenyl ether (DecaBDE)の名前の方が有名かもしれません。
2020年12月にこのEntry67のBis(pentabromophenyl) etherは、制限物質から削除されました。
POPs規則によりより強く規制されます。
Entry68のperfluorooctanoic acid (PFOA), its salts and PFOA-related substancesを何で飛ばすの?という声が聞こえてきそうですが、PFOA関係は過去にも記事書いてますし(例えば、化学物質管理に使われる用語(その2:PFOA))。その他にも、検索窓にPFOAを入れてもらうと過去に書いた記事が出てきます。
そして今回のBis(pentabromophenyl) etherもSVHCです。
Entry67 Bis(pentabromophenyl) etherの基本情報と物理・化学的特性
Bis(pentabromophenyl) etherは、多分これはIUPACではないはずです。ECHAのページにはこう書いてあったので一応書いておきますが、Decabromodiphenyl etherが一番一般的じゃないかと思います。NITEのCHRIP上の日本語名もかなり変わっています。一応、以下の化学物質名には英語はECHAで使用しているもの、日本語名は、NITEのものを示しておきます。
化学物質名:Bis(pentabromophenyl) ether、デカブロモ-1,1’-オキシビス(ベンゼン)
化学式:C12Br10O
分子量:959.17 臭素を10個も含むため分子量が大きいです。
別名(略称含む):Decabromodiphenyl ether, Decabromodiphenyl oxide,DBBE、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルオキシド、ビス(ペンタブロモフェニール)エーテルなど多数
CAS RN:1163-19-5
EC No.:214-604-9
常温では固体です。融点に関する記述はいくつかあり、300℃を超えているようです。
また、水はもちろん、ベンゼン、アセトンにも不溶とありますので、かなり溶媒には溶けにくい物質です。
それともう一つ注意点があります。この物質は試薬で買っても純度が95%以上というような表現がしてあり、かなり精製が難しい物質だと思います。今まで紹介してきたREACH 制限物質は、試薬で買えば少なくとも分析値で98%以上の純度(多くは99%以上)が保証されているのですが、この物質はそうではありません。
この物質は臭素が10個ですが、他に臭素の数が少なかったり、構造が多少違うものも含まれていることになります。結構純粋(99%以上)なものってあるのかな、、、。
Bis(pentabromophenyl) etherの危険性(概略)
この物質は、飲んだり、皮膚に触れたり、吸い込んだりすると有害とありますが、かなりの有機化合物ってその傾向はありますね。眼には重篤が刺激がありますが、それよりも遺伝的欠陥を引き起こす疑いがある、長期または反復暴露により臓器に損傷を与える可能性があることが危険性です。
この物質は、既にSVHCに指定されています。指定理由は、PBTとvPvBということになっています。
PBTとかvPvBって何なんだよ、略号ばっかで判らねえよと思われた方、ごもっともです。
PBTはPersistent, Bio-accumulative and Toxicの頭文字を取ったもので、日本語では難分解性、生物蓄積性、毒性(有害性)です。
一方、vPvBは、very Persistent and very Bio-accumulativeの略で、日本語では非常に高い難分解性と非常に高い生物蓄積性となります。
難分解性で生物蓄積性のある物質は、環境中の生物にも取り込まれ、生物濃縮が行われていきます。
Bis(pentabromophenyl) etherは日本でも規制されている
Bis(pentabromophenyl) etherは日本でも規制されています。まず、化審法の第一種特定化学物質に指定されています。これは、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の附属書A(原則禁止)にリストされているからです。
また、化管法の第一種指定化学物質(PRTRの対象)になっています。
どこに使われているか
Bis(pentabromophenyl) etherの欧州域内における輸入生産は、1,000から10,000t/年であり、それほど多いわけではありません。
しかしながら、後述する制限条件やSVHCになっていることを考えるとこんなに使われてるのと思ってしまいます。
この物質は、一般に臭素系難燃剤として知られており、燃えては困るようなところに使用されます。
ECHAのSubstance Infocardによれば、消費者製品では、接着剤とシーラント、コーティング製品、充填剤、パテ、プラスター、モデリング粘土、インクとトナー、皮革処理製品、潤滑剤とグリース、ポリッシュとワックス、ポリマー、洗浄・クリーニング製品、化粧品とパーソナルケア製品と書かれていますが、今時こんなところに使っている製品はまずないと管理人は考えます。
もちろん、過去に使用された製品が残っているという場合はあるでしょう。
更に、上記のような製品を作る事業所でも使用されると書かれていますが、これも今は新たな使用はほとんどないと思います。
管理人が知っている過去の使用用途は、ポリスチレン・ABS樹脂・ポリエステル樹脂への難燃剤であり、これは有名だと思います。
制限条件
Bis(pentabromophenyl) etherの制限条件は、以下のように定められています(管理人の翻訳なのであまり当てにしないように)。
- 2019 年 3 月 2 日以降、単独で製造したり、物質として上市したりしてはならない。
- 2019年3月2日以降、0.1重量%以上の濃度で以下の物質の製造に使用してはならず、また市場に出してはならない。
(a) 構成物質としての他の物質
(b) 混合物
(c) 成形品またはその一部 - 第1項及び第2項は、以下に使用される物質、他の物質の構成要素又は混合物の構成要素として使用される、又は使用されるものには適用されない。
(a) 2027 年 3 月 2 日以前の航空機の製造
(b) 次のいずれかの予備部品の製造に使用する場合
(i) 2027年3月2日以前に製造された航空機
(ii) 指令 2007/46/EC の範囲内の自動車、欧州議会および理事会の規則(EU) No 167/2013 の範囲内の農林業用自動車1 または欧州議会および理事会の指令 2006/42/EC の範囲内の機械類2 のうち、2019 年 3 月 2 日より前に製造されたもの - 第2(c)項は、以下のいずれにも適用されないものとする。
(a) 2019 年 3 月 2 日より前に市場に上市された成形品
(b) 第3(a)項に従って製造された航空機
(c) 第3(b)項に従って製造された航空機、車両又は機械のスペア部品
(d) 指令 2011/65/EU の範囲内の電気・電子機器 - 本項目において「航空機」とは、次のいずれかを意味する。
(a) 欧州議会及び理事会の規則(EU)第 216/2008 号に基づき発行された型式証明書、又は国際民間航空機関(ICAO)の締約国の規則に基づき発行された設計承認に基づき製造された民間航空機、又は国際民間航空条約の附属書 8 に基づき ICAO の締約国により耐空性の証明書が発行された民間航空機
(b) 軍用機
Bis(pentabromophenyl) etherは、既に使用用途は非常に限られている
ここからは、管理人の主観が入っていますので、決して鵜呑みにしないでください。参考情報程度であり必ず自分で判断して下さい。プライバシーポリシーにも書いてある通り、管理人は一切の責任を負いません。SVHCの解説の際は、必ずこの注意書きが入ります。
Bis(pentabromophenyl) etherは、SVHCであり、制限物質です。しかも製造や使用を既に禁止されていると言って過言ではありません。制限物質における未だに制限が免除されている部分以外には使いようがありません。
更には、POPs条約の附属書Aにリストされているので、こちらでも強力に制限されています。
従って、過去に使用されたものは残存しているでしょうが、新規にはほとんど使用されないと言って良いでしょう。
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